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内部通報整備・運用の3つのポイント

公益通報保護法の改正

2020年6月に、公益通報者保護法が14年ぶりに改正されることが決まりました。

ここ数年でもさまざまな社会問題化する不祥事の発覚が後を絶たず企業の経営環境に多大な影響を及ぼしてきました。

公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用をすることは、労働者からの通報をリスクと捉え及び腰になっている事業所もあるのではないでしょうか。

今回の法改正をリスクではなく契機と受け止め、積極的に活用するためには職場環境改善とセットに行うことが効果的です。

この記事では、コンプライアンス経営の促進と従業員や株主に対して信頼感を得るための内部通報整備・運用のポイントをご紹介します。


従業員が通報しない理由

公益通報者保護法とは「公益のために通報を行った労働者を保護する」ための法律です。

現行の法律は義務ではないため特に中小企業では仕組みさえ整っていないのが現状です。

消費者庁の調査では内部に通報窓口が設置されていても労働者が最初に通報するのは「勤務先以外」を選ぶ方が半数を超えています。

理由は、「通報しても十分対応してくれない」や「不利益な取扱いを受けるおそれがある」です。

この結果から内部体制の仕組みや相談体制の整備の遅れが浮き彫りとなっています。

内部通報制度の整備・運用を進める際には、法令順守の視点だけではなく、どのようにしたら従業員から通報や相談が受けやすいのか通用・相談体制や周知も大切です。

また、組織全体については経営理念や社会貢献を捉えた職場環境改善も含めて仕組み作りをすることをお勧めします。

現行の内部通報制度の実態について

出典:「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」(消費者庁)
出典:「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」(消費者庁)
出典:平成30年12月 公益通報者保護専門調査会報告書
出典:平成30年12月 公益通報者保護専門調査会報告書

公益通報者保護法とは

2006年4月からスタートしている公益通報者保護法の制度と改正後の内容についてお伝えします。

通報対象者

【現行】 「労働者のみ」労働者とは正社員・公務員・派遣社員・アルバイト・パートタイマー・取引先の労働者も含まれる。

【改正後】「労働者」に加えて「退職者(退職後1年以内)」「役員(原則として調査是非の取組みを前置き)」


対象法律と事実

〈対象法律〉

国民の生命、身体、財産その他の保護に関わる法律」

通報の対象となる法律は 計470法律(2019年7月1日現在)

例刑法、食品衛生法、金融商品取引法、個人情報保護法、等

〈事実〉

犯罪行為の事実と行政指導や行政処分の理由となる事実

【現行】 刑事罰の対象

【改正後】行政罰の対象を追加


3カ所の通報先

〈事業所内部〉

事業者は社内に公益通報に関する相談窓口や相談者を置く必要がある。

〈行政機関〉

通報対象事実が関連する行政機関。勧告・命令できる行政機関が通報先。

〈その他〉

「外部通報先」報道機関、消費者団体、労働組合など


保護の内容

  • 解雇の無効
  • 派遣契約の解除の無効
  • 不利益な取扱いの禁止

【改正後】通報に伴う損害賠償責任の免除


保護の要件と通報の条件(3ヵ所の通報先ごとのケース)

〈事業所内部〉

対象事案が「まさにはじまろうとしている」

〈行政機関〉

「まさにはじまろうとしている」と真実相当性「信じるに足りる相当の理由(根拠)」があること

【改正後】  氏名等を記載した書面を提出する場合の通報を追加

      権限を持つ行政機関として対応するために必要な体制の整備等

〈その他〉

  • 真実相当性に加えて、次のいずれかに該当すること。
  • 他の通報をすれば不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由。
  • 事業所内部に通報をすれば証拠隠滅などのおれそがある。
  • 労務提供先から公益通報をしないよう正当な理由なく要求された場合。
  • 事業所内部に文書通報して20日を経過しても何も通知がない・調査をしない。
  • 生命・身体の危害や急迫した危険がある場合。

【現行】 生命・身体に対する危害

【改正後】財産に対する損害(回復困難または重大なもの) を追加

  通報者を特定させる情報が漏れる可能性が高い場合


事業所の義務(改正後)

  • 従業員が300人を超える事業所は公益通報対応業務従事者や通報窓口を設ける等の体制整備が必要。
  • 通報者の情報が漏れないよう事業所の窓口担当者などに罰則(30万円以下の罰金)付きの守秘義務がある。
  • 内部通報制度の運用・整備を実行しなかった事業所には行政措置(助言・指導、勧告と勧告に従わない場合の公表)を規定。

今回の改正での見送り案

内部通報者に不当な扱いをした事業所への行政措置などは施行後3年をめどに改めて検討。

内部通報制度の整備・運用に向けた職場環境整備の3つのポイント

これまでお伝えしてきた公益通報者保護法の概要とポイントですが、最後に職場環境改善の観点でまとめます。

ポイント① 経営トップの発信

社内文章や通達の文字だけではなく、動画配信や従業員との意見交換会等も効果的です。

事業所内での重要な制度や取組み伝える際にはトップダウンが大きな力を発揮します。

ポイント② 内部通報制度の方針や規定について幅広い手段で周知

社内通達・社内イントラネット、メールだけではなく、説明会や研修会(動画配信等)を積極的に活用。

Webフォームやアンケート調査を利用して匿名でも通報できるように整備します。

通報後の対応を20日以内(法第9条 是正措置の通知)に連絡する仕組みを作ります。

「秘密情報を守ります」や「不利益な取扱いは一切しません」を強調することは言うまでもありませんが、それでも安心して通報や相談ができないのが従業員の本音ではないでしょうか。

勇気を出して通報してくれたことへの感謝や労いを称え、場合によっては評価やインセンティブを付与する仕組みを作ると、従業員同士の口コミで一気に事業所内に広がることでしょう。

ポイント③ 相談窓口の設置

相談窓口をメンタルヘルスやハラスメント相談と一元化して設置することがおすすめです。

敷居を低くして利用しやすい通報・相談窓口を設置すると相談件数が増加し、従業員の声を多く得られることができます。

しかし、不平・不満の声や匿名性の相談が増える事も予想されます。相談窓口はハラスメントやメンタルヘルスまで幅広い内容に対応するための相談スキルが求められ、専門性を保有していない担当者が窓口を担うと業務負担にも繫がります。

職場環境改善するための材料として、従業員の本音やメンタル不調のリスク把握は事業所内のコンプライアンスの整備だけではなく、経営理念や生産性向上の制度を作る上でも重要な情報となります。


(ここむ株式会社カウンセラーチーム)